2019年6月24日月曜日

三浦俊彦氏による、「東京大学関係教員有志声明」への応答について

三浦俊彦氏は、東京大学関係教員有志声明(http://statementontgarticle.strikingly.com/)を受け、2019年6月11日付で下記の応答文を発表しています。
三浦俊彦教授によるトランスジェンダーに関するオンライン記事について「東京大学関係教員有志声明」への応答」

しかし、元記事の問題点は、三浦氏が応答文で述べているような文体の問題に留まるものではありません。根本的な問題は、三浦氏がトランス女性を性的加害者男性としてとらえ矮小化・悪魔化していることにあり、その点は応答記事においても温存されています。

なお、有志メンバーである渡辺一暁氏が、今回の問題に関連し、gender identity概念に関する哲学論文の文献紹介、およびそれを踏まえた自身の意見表明のブログ記事を2019年6月19日付で発表しています。
「Jenkins 2018, "性同一性の説明に向けて"」https://kugyo.hateblo.jp/entry/20190619/1560894347
上記記事は渡辺氏の個人ブログ記事であり、有志とは独立のものですが、今回の問題に関して重要な論点・視座を提供する論考としてリンクを掲載いたしました。

2019年6月14日金曜日

賛同者の方々2

6月7日から13日までの間に、以下の方々が私たちの声明に賛同してくださいました。ありがとうございました。(追記:6月24日に、新たに賛同してくださった2名の方を追加しました。ありがとうございました。)

鈴木生郎(日本大学)
梶本尚敏(シドニー大学)
渡名喜庸哲(慶應義塾大学)
嘉目道人(大阪大学)
鈴木径一郎(大阪大学)
岡嶋隆佑(慶應義塾大学)
伊藤潤一郎(早稲田大学)
呉羽 真(大阪大学)
池田喬(明治大学)
石井雅巳(慶應義塾大学)
高橋祥吾(徳山工業高等専門学校)
岡本かおり(大阪大学)
平井靖史(福岡大学)
松田智裕(立命館大学)
松本渚(大阪大学)
澤田和範(京都大学)
小川泰治(宇部工業高等専門学校)

引き続き、声明に賛同してくださる方を募っております。投稿フォームはこちらです。
https://forms.gle/LykmNUWkFQW5Jist8

2019年6月6日木曜日

賛同者の方々

6月6日現在で、以下の方々が私たちの発表した声明に賛同してくださいました。ありがとうございました。

佐野泰之(京都大学)
眞田航(大阪大学)
川崎唯史(熊本大学)
近藤智彦(北海道大学)
赤阪辰太郎(大阪大学)
松永伸司(首都大学東京)
太田 雅子(東洋大学)
梁艶萍(美学艺术学)
村山達也(東北大学)
竹内未生(無所属)
水谷雅彦(京都大学)
安藤歴(大阪大学)
歐陽宇亮(無所属)
菅原潤(日本大学)
小松原織香(同志社大学)
横田祐美子(立命館大学)
舟場保之(大阪大学)
八重樫徹(広島工業大学)
Elin McCready (青山学院大学)
村上祐子(立教大学)
L. A. Kirkland(New Anthropological Society)
谷川嘉浩(京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程 京都市立芸術大学非常勤講師)
槇野沙央理(千葉大学)
村田純一(無所属)
桂ノ口結衣(大阪大学)
諸岡優鷹(青山学院大学(院生))
Lewis Thurston(Non-affiliated)
酒井麻依子(立命館大学)
難波優輝(神戸大学)
小山虎(山口大学)
三木那由他(大阪大学)
ほんま なほ(大阪大学)
朱喜哲(大阪大学)
今将人(無所属)
山口尚(京都大学(非常勤))
林いつき(コロンビア大学)
平田公威(大阪大学大学院人間科学研究科)
小島和男(学習院大学)
秋元由裕(日本学術振興会・京都大学)
Liu Yaming(大連理工大学)
菊竹智之/ももえ(無所属)
山田竹志(早稲田大学)
米田翼(大阪大学)
藤川直也(東京大学)
竹本 研史(法政大学)
藏田伸雄(北海道大学文学研究院)
木下頌子(慶應義塾大学)
鈴木雄大(国際武道大学)
柏葉武秀(宮崎大学)
久木田水生(名古屋大学)

引き続き、私たちの声明文に賛同してくださる方を募集しています。投稿フォームはこちらです。
https://forms.gle/LykmNUWkFQW5Jist8



2019年6月3日月曜日


哲学研究者有志による三浦俊彦氏のウェブ記事に関する声明



わたしたちは、哲学を専門分野とする研究者有志です。

このたび、東京大学文学部教授の三浦俊彦氏によるニュースサイト『TOCANA』への寄稿に関し、その内容、および哲学者の肩書のもとで発表されていることについて、大いに問題があるものと考え、強く抗議します。そして、三浦氏の文章によって尊厳を傷つけられた方々、脅威に晒され恐怖を覚えた方々への謝罪を求めます。






上記の寄稿については、2019年5月27日に東京大学関係教員有志一同によって発表された「本学三浦俊彦教授によるトランスジェンダーに関するオンライン記事についての東京大学関係教員有志声明」においても、問題点の具体的な指摘および抗議がなされています。



三浦氏の寄稿は、大きな倫理的問題のみならず、学問的誠実さに関する問題をも含んでいます[1]



倫理的問題として、以下が挙げられます。

氏の寄稿は、トランス女性を性暴力加害者予備軍であるかのように描いています。

このような扱いは、それ自体侮辱的で、スティグマ化を含んでおり、トランス女性の尊厳を傷つけるものです。

それに加え、寄稿がさまざまな悪影響や問題ある帰結をもたらすことが懸念されます。

例えば、トランス女性の公的空間からの排除や憎悪犯罪・愉快犯罪の扇動、また、それらに対する誤った根拠付け・権威付けが与えられてしまうこと。

さらに、不安や憎悪の扇動によって、トランス女性を含めたあらゆる女性たちに対する暴力・差別をなくすという、重要かつ複雑な問題に関する地に足のついた議論がいっそう困難になることが懸念されます。



学問的誠実さの問題として、以下が挙げられます。

第一に、論証が独断的・恣意的に歪められていること。例えば先行研究の十分な参照の欠如、不適切な参照・引用による根拠づけ、根拠から帰結しない主張の導出といった、様々な点における不備を含む論証が、あたかも氏の意見を論理的に裏付けるものであるかのように提示されていること。[2]

第二に、前述のように不十分な根拠や独断に基づいた議論がなされているにも関わらず、寄稿は「哲学的直観」に基づくと銘打たれており、あたかも哲学的に正しい議論であるかのような印象を与えうること。

第三に、倫理的問題および学問的問題を多く含む記事を、「哲学者」による寄稿と銘打って一般社会に発信することで、読者に対し哲学・人文学研究に関する誤解を招くこと。



以上を踏まえ、わたしたち有志は次のことを主張します。

わたしたちは哲学者として、また学術共同体の一員として、個人の尊厳を損なうこと、マイノリティへの差別を扇動することを許容しません。

そして、このように学問的誠実さを欠くばかりか、人々を傷つけ、社会に害を為す文章が哲学の名の下に発信されたことに対し、強く抗議します



最後に、氏の寄稿を読んで、哲学は自分の存在を脅かすものだと感じた方々もいるかもしれません。しかしながら、独断に基づいて人々を排除し貶める行為は、哲学とは程遠いものです。哲学とはむしろ、多様な観点からの批判検討と改訂の可能性に開かれた柔軟な態度のもと、真理の探究のために議論を積み重ねるものです。そして、それがある特定の立場への率直な批判へと帰着することになったとしても、そのために侮辱や愚弄、悪魔化といった手段が横行することをわたしたちは許容しません。他人を貶めようとせず、知への好奇心を持ったあらゆる人々をわたしたちは歓迎します。



哲学研究者有志(五十音順)

和泉悠(南山大学)

大塚淳(京都大学)

小手川正二郎(國學院大學)

古怒田望人(大阪大学)

西條玲奈(京都大学)

髙村夏輝(松蔭大学)

筒井晴香(東京大学)

藤高和輝(大阪大学)

村上靖彦(大阪大学)

渡辺一暁(無所属)

※本声明文にご賛同いただける哲学研究者の方は、下記フォームよりご連絡をいただければ賛同者としてお名前を記載させていただきます。

https://forms.gle/pHEMZFFWqKaBGQF48

[1] この声明文では2019年5月14日付の寄稿を批判の対象としていますが、『TOCANA』に掲載されている他の三浦氏の寄稿においても、女性嫌悪・蔑視に基づく主張や、学問的誠実さの欠如が見られます。わたしたちは、それらの寄稿も同様に問題あるものと考えています。
[2] 論証における問題点の具体例については、前掲の東京大学関係教員有志声明、および以下の記事をご参照ください(敬称略/初出日付順、連続記事の場合は第1回のみ記載)
ぽてとふらい(2019年5月20日)「いち当事者からの『TOCANA』三浦俊彦寄稿文への批判1」『note』(※連続記事、19.06.01時点で第3回まで更新)
和泉悠「三浦俊彦教授のウェブ記事について1」『和泉悠ブログ』(※連続記事、19.06.01時点で第2回まで更新)